2010年11月21日日曜日

11月の読書 その2

 前回に続いて、最近読んだ本について書こう。

1.『グロテスク・ジャパン』(井上章一 洋泉社)
2.『日本人の階層意識』(数土直紀 講談社選書メチエ)

1は、全日空の機内誌『翼の王国』に連載されていたものを加筆している。日本の文化が海外で「グロテスク」に変形する様子(ドイツで「タタミ」というサンダルが売られたり、ブラジルに招き猫があったりする等)を書いていて、まあまあ楽しめた。

2は、日本人の階層意識と価値意識について分析している。価値意識では、「何を基準にして地位や財を分配すべきか」という質問に対して、日本人は業績より努力を挙げる割合いが高い。(SSM調査データ)

 これについて著者は、その背景に努力することを強いるような日本的な組織・システムがあるとし、例として終身雇用及び新卒一括採用を挙げている。中途採用市場が未発達であり、正規雇用の身分を守るために「意に反して」長時間労働に従事していると感じている人が多く、「この努力は何らかの形で報われるべきだ」という形で、努力をより選択している可能性があるという分析だ。
 
 個人的には業績を選択するのだが、この分析はなかなか鋭いと思った。もちろん日本人全般に一般化はできないが、日本的な組織・システムに適応する過程を通じて形成された価値意識がある、ということは否定できないだろう。

2010年11月14日日曜日

11月の読書

 今月に読んだ本のことを書こう。

1.『カントの憂鬱』(佐飛通俊 講談社)
2.『信長は謀略で殺されたのか』(鈴木眞哉・藤本正行 洋泉社新書)
3.『信長の棺』(加藤廣 日本経済新聞社)

 1は『文学1997』(日本文藝家協会)という短編アンソロジーに入っていて、昔読んで印象に残っていたのだ。表題を含む短編集なのだが、「カントの憂鬱」はスポーツ新聞社を舞台に、深夜勤務する主人公がカントの哲学理論を援用しながら日常を語るのが新鮮なのだ。
 地下鉄サリン事件のため、ますます仕事が忙しくなる主人公の独白が面白い。表題作以外では「夜勤の夜」がなかなか良かった。

 2は前に書いた「田園りぶらりあ」で買ったのだが、予想以上に楽しめた。これと関連して読んだ3は2005年のベストセラーなのだが、当時の小泉首相が愛読書として挙げたことが、売上げアップに貢献したのだろう。読んでいて、当時を思い出して懐かしい感じがした。