2011年1月3日月曜日

正月の読書  『私を離さないで』

 明けましておめでとうございます。

 この正月は、カズオ・イシグロの『私を離さないで』を読んでいた。この著者の作品は、これ以外全て読んでいるのだが、(『日の名残り』が最も気に入っている)『充たされざる者』、『私たちが孤児だったころ』がいまひとつ面白くなかったこともあり、これも読んでいなかったのだ。

 村上春樹が「ノックアウトされた」とあるインタビューの中で発言していて、期待していたのだが、その期待通り私も「ノックアウトされた」といっておこう。土屋政雄氏の訳がまた素晴らしい。

 最後の方、キャシーとトミーがマダムに会いに行くところは、展開は全く異なるが映画「ブレードランナー」のロイ・バティとタイレルの面会を少しだが想起させる。また『日の名残り』でもそうであったように「自分に与えられた運命を受け入れる」という世界観というか人生観-これは著者もどこかで語っていた-が根底にあるのだろう。

 抑制の利いた文章で語られる、魂のこもったこの作品は『日の名残り』と共にカズオ・イシグロの最高傑作だろう。まだカズオ・イシグロを読んでいない方には、この2作をお薦めしたい。

 

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