2009年9月26日土曜日

村上春樹 雑感その4

 村上春樹が『風の歌を聴け』で『群像』新人賞を取ってデビューしたのは、1979年のことだ。個人的には、この小説が最も気に入っている、というか愛着がある。

 「29歳の春の昼下がりに、神宮球場の土手式の外野席に寝ころんでいて」「突然何かが書きたくなって、新宿の紀伊國屋で万年筆と原稿用紙を買ってきた。」とある。(『村上春樹全作品1979-1989①』の作者による解説「台所から生まれた小説」)

 最初の何ページかは英語で書いて、それを日本語に訳すという形で進めたらしい。文章とチャプターが断片的なのはそのためだろうか。
 平野芳信氏の要約を少し引用しておこう。

 「恋人に死なれた大学生の僕は夏に帰省していた。ある日馴染みのジェイズ・バーで、女性が泥酔しているのを介抱する。彼女は親友の鼠の恋人らしいが、彼との仲がうまくいってないらしい。彼女がレコード店で働いているのを知った僕はそれとなく鼠に教えるが、二人の仲は好転しない。鼠は僕に彼女のことを相談しようとする。しかし、彼女は宿していた子供を中絶してしまう。同じような経験を持つ僕は、居たたまれない気持ちになり…(中略)。虚しく全てが終わり僕は東京に戻った。」

 <鼠>と<僕>の関係は、チャンドラーの『長いお別れ』のマーロウとレノックスをイメージしたらしが、「あんまり似ていない。」と言っている。まあ雰囲気は伝わってくるのだが。

 これほど上手くリアリズムから離れた、とういうか自由な小説が現れたのは、文学界にとってエポックメイキングな出来事だっただろう。芥川賞を取れなかったのは、今となればどうでもよいこととはいえ、少し残念な気がするが。
 

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