2009年10月3日土曜日

村上春樹 雑感その5

 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』も好きな小説だ。「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」が交互に展開していくのだが、後者だけを読んでも十分楽しめる。最近はこのやり方で読んだりもしているのだ。
 
 この作品は谷崎潤一郎賞を受賞した。選考委員は丹羽文雄、遠藤周作、吉行淳之介、丸谷才一、大江健三郎の5氏だ。丹羽氏、遠藤氏は反対、吉行氏は「受賞に、私はやや消極的」であり、丸谷氏と大江氏が賛成している。

 丸谷氏は「村上氏はリアリズムを捨てながら論理的に書く。」と的確に批評している。また、「この甘美な憂愁の底には、まことにふてぶてしい、現実に対する態度があるだろう。」とも言っているが、これも非常に鋭い。世間から距離を置いている職人であればこそ、カルト・ライターになれるのだろう。

 また、大江氏は「冒険的な試みをきちょうめんに仕上げる、若い村上氏が賞を受けられることに、すがすがしい気持ちを味わいます。」と評している。大江氏がこんな風に褒めていたとは……。カルト・ライターはカルト・ライターを知る、というところだろうか。

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